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絶望死というアメリカの病

 カリフォルニアで2日連続、アジア系高齢者男性が銃を乱射、多くが犠牲になった悲劇的な事件で、ヤフーに背後情報を加えた詳しい記事が載っていました(「米国でアジア系による銃乱射事件多発、何が原因でなぜ今なのか」)、元は高濱 賛氏によるJBPressの記事です。普段、このメディアの記事は、どうも信用できない偏ったものが多くて読まないのですが、これは興味深く読みました。

 この記事によると、ロサンゼルス郊外モントレーパークで11人を射殺した72歳のベトナム系男性は、現場のダンススタジオの常連で、ここで知り合って付き合っていた女性に交際を打ち切られての恨みではないか、ということが、本人が自殺した今となっては、動機は想像するしかありません。事件の翌日、サンフランシスコ近郊ハーフムーンベイ市のキノコ栽培農園で7人を射殺した67歳の中国系男性の方は、職場で被害者たちからパワハラや暴行を受けていたとの情報があるそう。

 高齢者の無差別銃乱射で大量殺人は、実はさほど稀ではなく、2017年になんと61人もの死者を出したラスベガスの銃撃事件の犯人は64歳でした。犯人の死によって、動機は謎のままです。

 カリフォルニアでの3日連続銃撃事件では、サンフランシスコ郊外の事件の犯人は確保されましたが、他の2件の犯人は自殺しました。死ぬ覚悟があるからこそ、これほどの行動に出れるのだとも言えますが、他人を道連れにせず1人で死んどけ!って言いたくなる。でも、簡単に道連れを連れていけるのは、銃という非力でも短時間に多くの人命を奪うことが可能な道具が簡単に入手できるからというのは否めないでしょう。

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 アメリカの中年・高齢男性たち、特に白人で、「絶望死」が増加中なのだそうです。絶望死とは「薬物、アルコール、自殺による絶望の死」のことです。LA郊外の犯人もそうだったのかも。孤独と将来への不安、毎日のように通っていたダンス・スタジオからは疎まれ、嫁には去られ、ガールフレンドには振られた絶望による自棄っぱち行動なのかも。あくまでも私の想像ですが。

 絶望死の増加の背景にあるのは、所得の低下だと言われています。大学の学位を持たない労働者階級の実質賃金の中央値は、ここ半世紀、ずっと下降を辿っているのだそうです。日本ではここ30年間、賃金の上昇がないそうですが、アメリカの場合は全体的には賃金は上がっているのに、学士を持たない人々の間では、実質賃金の中央値が半世紀にわたって減少しているため、労働参加率も減少しているという、計量社会学者による大規模な研究結果が出ています。

 大学を出ていないので職種が限られた人達には、働き盛りなのに思った通りの仕事が得られない。物価の上昇に収入がついていかない。酒や麻薬に逃げる人もいるでしょう。中西部の田舎に住んでいると、高等教育は無駄だと言い切る人が多い。いち早く働きだして、収入を得ることこそ価値があると。義務教育を終えて社会に出て、手に職をつけ、腕を磨き、自分の価値を上げていくためのジャンプスタート。それは職人さんだけではなく、会社勤めだって同じことです。そのことに異議を唱える気は全くありません。

 でも、大学なんて面倒くさい、だからって勤めだしても、特に事情もないのに直ぐ辞めて長続きしない人も多い事を見てきました。日本よりずっと大学進学率の低いアメリカですが、学費が格安で、受験もなく、授業時間が柔軟で働きながらでも勉強できるコミュニティーカレッジ制度があり、教育を受けたい人には、日本よりも恵まれた環境にあります。働き出したけど、なんか合わないから、違う方向も試してみるか、が、日本より簡単にできる。でも、しない。スーパーへ買物ついでに予防接種を受けることができるほどに至れり尽くせりなのに、ワクチン接種率が低いのと同じ。

 トランプに熱狂した人達が多かったのは、白人至上主義者とまでは行かずとも、自分が白人であることで優越感を得たい人々の琴線に触れたせいもあったでしょう。有色人種より優れた存在であるはずの自分、労働者として頑張ってきた自分が、なぜ毎月の支払いに追われ、雇用を脅かさているのか?移民や、自分たちの権利ばかり訴える有色人種と、彼らを贔屓する(民主党)政府のせいだ。でも、コロナが猛威を振るっていた頃、「エセンシャル・ワーカー」として、低賃金でもスーパー等で働いていた人々に有色人種が目立ったのはなぜ?

 アメリカを再び偉大に。かつては一所懸命働けば報われた。家を買って、子供を育て、55歳になったら退職し、悠々自適だった。それが、今はどうだ。そんな怒りは、改善しない暮らしの中で絶望へと変わっていくこともあるでしょう。そして年金暮らしの高齢者には、物価上昇が生活に直接に響く。なのに世間では、消費が上昇、特に高級品の売れ行きが好調なんて聞くと、自分だけが取り残されたような気持ちになる。かつてアメリカ人にとって、コミュニティーの中心であり、社会的な支援共同体でもある教会はこころの拠り所でした。でも、無邪気に神を信じることのできる人が減っています。今、教会の閉鎖が急増中だそうです。

 ならば大学を出ていれば将来は安泰なのかといえば、そうでもない。AIの進化で、人間が単純労働から開放されるのかと思っていたら、今やAIが絵を描き、一流大学の論文を書き、試験に楽々合格する時代。ロボット弁護士が法廷レビュー?なんてニュースも伝えられました(実現しないようですが)。裁判に行ったら、裁判官も弁護士もロボットで、AIが人を裁く。ロボットが知的作業をして、人間が使われちゃうようになるかもしれない。ますます絶望しそう。で、手元に銃…
 


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Comment
すごく納得しました。何年も前ですが、パックンが「下駄を履いていることに胡座をかいて教育を受ける権利を放棄した田舎の白人がトランプ支持者だ」と書いてました。今はデサントスがアファーマティブアクションを標的にフロリダに白人とアンクルトムの共和国を作ろうとしている。戦争で国を壊されたことが無いアメリカが中から腐り始めてる、そんなことを思います。テイラースイフトやビリーアイリッシュのような人もたくさんいるのでしょうけど、、、
負の連鎖ですね。
大きな国だけに難しいことがイッパイ。
でも、これだけの事件が起こっても、銃は必要と言い続けるのも変わらないことなんでしょうね。
最近は日本でも物騒な事件が多くなってきて怖いです。
リンク先も読んできました。
ベトナム系移民と中国系移民の関係はラブ・アンド・ヘイトなど、人種間の問題もあるでしょうが、やはり、高齢者の孤独、心の闇と嫉妬などが直接原因の様な気もします。
日本でも、貧富の差が広がり、孤立する高齢者が増えているし。ただ、銃社会のアメリカだと、行動に移すまでに時間が要らないのかも・・・
興味深く読みました。
トランプが指示される理由ってそうだったんだと気づかされました。
日本でもし銃があったら…
銃がなくTも安倍総理のような事件が起きる日本です。
そして自分の意見もなく人の言っている事に流されやすいので…
銃があったらとんでもない事になるんじゃないかと。
本当に銃に規制があって良かったと思います。
YOSHI様
パックン、言い得て妙だとい思います。本当に、早く社会に出て腕を磨く職人となろうというのでもなく、ただ高校を出て地元に適当に就職し、いやになったら職を変え、を繰り返している人が多いのが事実だと思います。アメリカのいくつかの工場で働いた経験から、50代以上は同じ工場でずっとやってきたベテランがほとんど。頼れる職人さんで、70大になっても未だに呼び出されてたり。
それより年下だと、マネジャーには高卒で入ってラインで働きながら講習を受けて専門技術を得て昇進していった人がいる。でも、新しいことを学ぼうとせず、工場ジゴロみたいな人も多い。以前はそれでも生きていけたけど、人間が機械に取り替えられるような今、どうすれば取り替えられずに済むのかを、誰もが考えなければならない時代なのかもしれないと思います。

フロリダは富裕層の白人も多いけど、移民も多い州、高齢白人富裕層の影響力が大きいのか、移民たちも自分は苦労して正式に移民になったので不法移民が許せないから同調するのか。興味深く見ていましたが、このままデサントスが全米で受け入れられる可能性の高い今、仰る通りで、巨大化しすぎて内部から腐って崩壊したと言われるローマのことを思ってしまいます。
なっつばー様
日本でも恐ろしい事件が話題になって、怖いので、その関係の記事は読まないようにしていますが…v-12
銃が普通に出回ったり、麻薬が合法になったら、海外からボスが指示を出して強盗できる遠隔操作だってできちゃうんだし、海外からのマフィアもどんどん入ってきて抑え切れないのではないかと心配です。
凶悪犯罪は昔からあったとは言いますが、銃があると無いでは全く状況が違うのは、アメリカとそれ以外の国を比べると明確ですよね。
そんんああほな。様
>高齢者の孤独、心の闇と嫉妬などが直接原因
全く同感です!そこへ銃があるから、若者と少しもみ合ったら銃を取り上げられています高齢者が簡単に何人をも殺せてしまう。銃があるから、そんな行動にも出れたんだと思います。
 これから日本は、益々高齢化社会。加えて格差が広がっている。タワマンに住んで悠々自適、趣味を楽しむ高齢者の一方で、年金生活で困窮する高齢者もいる。早めに何らかの政策で手を売って欲しいけど、悠々自適生活の約束された政治家は関心ないんだろうな…
マクノスケ様
手前味噌ですが、日本に情報を伝えるジャーナリストの方々はニューヨークやLA、ワシントンといった都会に住んでいる方が多くて、お付き合いも自分と同じような高学歴の人が大多数でしょうから、当に、「自分の耳に心地よい人の言っていることに流されやすい人たち」が多い。アメリカの田舎の労働者と接触する機会もないのではないかと思います。私自身、都会から今の中西部に引っ越してきたとき、アメリカ生活20年以上を経て初めてカルチャー・ショックでした。

しかも、特に田舎では銃が日常生活の中で溢れています。都会のような規制もない。アメリカは、所得でも二分化、文化や社会も土台からに二分化していると思います。そこはまだ、日本はマシかなぁと思うんですが。
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sirowaniko

Author:sirowaniko
アメリカ生活も30年超え、NY、MA、DC、TX,CO、CAを経て、今はオハイオに犬猫と住んでいる普通のおばさん。蚊と蚤とトランプ一味以外の生き物が好き。

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